選曲の傾向の変化

選曲について

仕事としての選曲も、時代とともに傾向が変わっていきます。特に最近は環境の変化にも伴ってかなり変わってきました。

変化の原因はYoutubeなどの新しいメディアの登場が大きく、プロの世界も影響を受けているからです。今やテレビ番組もYoutubeの映像を流す番組がゴールデンタイムにあったりと、メディア関係者には無視できない状況です。影響を受けないわけがないですよね。

音楽の重要度

音楽の重要度が下がったとまでは言いませんが、重要度合いが変わったとは言えます。つまり選曲に求められる内容が変わってきたのです。映像における選曲の傾向の変化について、具体的に見ていきましょう。

どう変化したのか

オープニング、エンディング

従来、映像作品にオープニング、エンディングは必須でした。当然オープニング曲、エンディング曲は重要で、本編とは独立した気合の入れ方でした(笑)。特にオープニングはその作品のイメージを印象付けるので、音楽の印象は重要でした。

しかし現在はオープニング、エンディングという明確な概念が存在しない作品が増えてきました。今はオープニングではなくイントロダクションですね。

オープニングとイントロダクションの違いは、あくまで映像作品としての捉え方ですが、オープニングには作品紹介としての意味合いもあり、テーマをはっきりさせる作りになるのが基本で、メインタイトルも入り、書籍でいうところの表紙でしょうか。それに対しイントロダクションは導入であり、書籍でいうところの表紙の次のページです。

この傾向は、映画の世界では数十年前からあり、昔の映画にはオープニングが存在し、メインタイトルや出演者のテロップなどが音楽と共に流れましたが、今の映画は出だしからドラマスタートですよね。

ただ、今の映像作品はこの映画のスタイルとも違います。意味合いは「ダイエット」「断捨離」に近いのです。

シーン頭、シーン終わり

選曲作業が映像編集の影響を受けることは当然です。映像に音楽を付けるわけですからね。つまり変化の要因に、映像制作側のスタンスの変化があります。

従来はシーン頭には「間」をもたせるのが一般的でした。例えば野外レポートであれば、周辺の山々や町並みなどの情景カットを入れるとか、室内であれば部屋の外観、部屋の引きカットなど、セリフ前には何かしらの間があり、音楽を聞かせた後にセリフやナレーションが入るパターンが大部分でしたが、今はシーンが始まった頭からセリフやナレーションを入れる場合が多くなり、音楽を聞かせる間がありません。

従来の音楽の役目だった導入イメージ、印象付けが必要とされず、導入からBGMレベルの、印象の薄い存在になりました。

同じようにシーン終わりも、従来は余韻を感じさせる編集が多く、”音楽で締める”という終わり方が一般的でしたが、今は余韻を感じさせる編集が少なくなりました。

つまり音楽は入りも終わりも主張する場が無いのです。BGMに徹しているんですね。

ブリッジが無い

シーンとシーンをつなぐブリッジ(橋)映像も今は無い傾向にあります。従来は必ず音楽の入っていたブリッジが無くなることで、音楽も必要が無くなる事になります。

イメージシーンはまだ残ってますが、それでも従来の作品より減少傾向にあります。

原因

環境の変化

そもそも、昔は映像作品を鑑賞するのに映画館に行かなければなりませんでした。みんなが集まって映像を見るわけです。それからテレビを見るようになりました。家族でテレビを見ます。テレビが普及すると個人個人で見るようになりました。

今は更に進んでコンピューターで映像を見るのですが、更に更に進んでスマホで見る時代です。ゆっくりと映像を鑑賞する事が無くなり、いかに隙間時間で見るか、多くの映像を見るかの時代です。余計なシーンや間は必要無くなり、目的の映像や、要約された情報をすぐに見たいという要求が増えてきました。前置きやお尻は視聴者自身がカットできる時代なのです。

そういう環境では、映像表現も音楽選曲も当然変化しますし、いろいろな映像作品に影響していきます。

Youtube

Youtubeの映像制作の大部分はプロフェッショナルではありません。ゆえに、なんのしがらみも無く、視聴者の求める映像スタイルを表現します。間を極力カットし、同ポジであろうが、音のつながりが悪かろうがバシバシカットします。シーンのつながりに意味を感じないので、情報の羅列作品になるのですが、今のニーズには合っているのです。

その作品が何万回も再生されればプロの映像制作者も無視するわけにもいかなくなり、Youtube作品に寄せた映像制作を作る事になります。

選曲する我々も、従来のスタンスでの選曲では対応できなくなります。

音楽へのこだわり

楽曲に対するこだわり

昔はディレクターも、音楽に対する趣味やこだわりを自分の映像作品に反映させようとする人が多く、「本物のオーケストラの曲」とか「アコースティックで」とか「ブリティッシュ・ロックと使いたい」など、楽器構成や細かいジャンルを要求されました。当然、作品には聞かせどころを意識した編集がなされていて、作品内容の他に自分の主張する部分を盛り込んだりしていました。

選曲側も、その要求に答えるために、良い演奏、良い音質、ジャンルの見極めも気にしていましたが、今その要求は音楽に絡んだ作品だけです。

昔はこだわりがあったのに、今は無い・・・などと嘆いているわけではありません。こだわりが変化したということです。音楽へのこだわりが強いディレクターやプロデューサーは今でも多く居ますが、今の映像作品に、そのこだわりを反映させる事の意味が薄くなったのです。

変化に対応する

これはポスプロ全体にも言えることですが、確実に変化している映像作品に、我々も対応していかなければなりません。当然必要な音楽も変わってきます。つまり音楽ライブラリーにも言えるわけです。

そもそも確実な答えがある世界ではありません。選曲家でなくても選曲はできます(実際、ディレクターが自分で撮影、編集、選曲まで一人でやる時代です)。が、Youtubeなどに助けられている現状でもあるのです。実は変化はまだ過渡期で落ち着いていません。当然トレンドも評価も変わります。

選曲家も過去の呪縛から開放されて、新しい表現を探る時期にあると思います。

これはこれで楽しみましょう(笑)。

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