ファンタジア

勝手にレビュー

1940年公開・監督:ベン・シャープスティーン 主演:ディームズ・テイラー 音楽監督:レオポルド・ストコフスキー

今回は先に選曲をしてから制作されたアニメーション作品です。

アニメーション超大作

ファンタジアという作品をご存知ですか?制作はディズニーです。

1940年って戦前です。今から81年前です。信じられないレベルでの仕上がりで、制作費もめっちゃかかった超大作です。ウォルト・ディズニーの意欲作で、崖の上で指をさすミッキーマウスの絵は見たことのある人も多いのではないでしょうか。

すべてが破格で、アニメーターの数、製作日数、映像の美しさ、動きなど、81年も前の作品とは考えられないレベルです。しかもアニメの音声は基本クラシックの音楽のみ、効果音すら楽器です。この作品は絵画を見るような芸術的作品で、物語を期待すると裏切られます。そもそも目指しているものが違うからです。

クラシック

この作品はクラシックを選曲することから始められ、そこにアニメーションならではの創造性を展開していくスタイルなので、音楽が重要です。そのために8曲の音楽が選ばれて、レオポルド・ストコフスキー指揮、フィラデルフィア管弦楽団の演奏で、なんとマルチ録音され(まだまだ世の中はモノラルの時代に)映画館で上映するためにマルチミックスされました。

調べてみると紆余曲折あり、いろいろな編集バージョンも存在するようですが、今の時代、ほぼ完璧に復刻され、当時の美しさと音響で鑑賞することができます。(音は当時より良いかも知れません、なんせ当時は光学のサウンドトラックの再生ですからね)

全曲解説

全部を詳しく解説すると長くなるので、ポイントだけ・・・

トッカータとフーガ

1曲目はトッカータとフーガ、パイプオルガンで有名な曲ですが。ここではオーケストラアレンジバージョンです。前半は実写、カラー処理で表現してますが、途中からアニメーションになり、抽象的なイメージになります。

くるみ割り人形

ソフトバンクのCMでも有名なくるみ割り人形。全曲ではなく抜粋ですが、ディズニー的な世界観が楽しめます。

魔法使いの弟子

残念ながら、私はこの曲をよく知りません・・・が、ミッキーマウスが登場する、いかにもディズニーアニメな、物語性のある表現。この曲自体もディズニー風というか、ディズニーアニメの音楽の基礎なんじゃないかと思える楽曲です。まるでオリジナル楽曲みたい。

有名な崖の上のミッキーもこの章です。

春の祭典

私が一番見たかったのがこの春の祭典。この1940年には作曲のストラビンスキーはまだ生きていました。有名な3大バレイ曲の最後の作品(火の鳥、ペトルーシュカ、春の祭典)です。

かなり個性的な曲で、初演されたときには、あまりの難解さに劇場が騒ぎになったという逸話があります。和音も拍子も従来の音楽から逸脱していて、1940年でさえまだ馴染んでなかったのではと思いますが、この曲を選ぶあたり、ディズニーと音楽監督の意識の高さがうかがえます。

本当は春の訪れを祝う(とはいえ生贄的な儀式)物語なのですが、映画では地球の創生、恐竜たちの死までを描いています。まったく違うお話になっています。

2部構成の楽曲ですが、1部の途中で終わり2部が始まる、構成を変えた演奏です。1部は宇宙〜地球創生、2部が生命の誕生です。2部も構成をかなり変えてあり、クラシック楽曲そのままではありません。我々選曲家がよくやる編集作業を譜面段階で行い、演奏したのでしょうか・・・。私の印象では、あきらかにオリジナル楽曲にはないフレーズが入っていたと思うのですが、映像を中心にしたいという思惑があったのかも知れません。

地球の変動シーンには再び1部の後半が出てきて、激しさを増し、終わったのかと思ったら、また1部の冒頭が出てきて、静かに幕を閉じます。

休憩

アニメーションには珍しく休憩が入ります。15分休憩しますとセリフが入ります。

休憩あけに、ちょっとしたジャズセッションがあり、本編に戻ります。

サウンドトラック

サントラ盤という意味ではではないですよ(笑)

もろ音声トラックの話です。光学録音トラックのことで、波形をアニメーションにして、どんなイメージなのかを教えてくれます。もちろんリアルではありません、あくまでイメージ。楽器の音の響きを波形で表現しています。

ベートーベン交響曲第6番・田園

これも全く田園の話ではなく、神々の話をアニメーションにしていますが、登場するキャラクターが当時のディズニーの顔をしています。ファンタジーな世界観で、誰もが想像する情景的イメージとは全然違います。

時の踊り

カバとワニ?が主人公なんでしょうか・・・とにかくバレイを踊るシーンが印象的な、音楽とのシンクロ性が解りやすいアニメーションです。

禿山の一夜〜アヴェ・マリア

禿山の一夜はムソルグスキーの作曲で、管弦楽アレンジはいろんなバージョンがあるようです。とにかく有名な楽曲で、アニメーションもイメージぴったりな作りでした。この禿山の一夜とアヴェ・マリアはメドレーになっていて、ひとつの物語となっています。

総括

とにかく81年前の作品とは思えません。私自身1960代の作品だろうと思っていましたし、仮に1960年代だとしても凄いです。CGのない時代で、すべて手書きセルですからね。音楽とのシンクロも大変な計算と作業だったと思います。

特に復刻作業で映像も音も、デジタルで美しく蘇っており、当時のスタッフも将来こんな形で見られるとは想像もしてなかったでしょうね。

物語ではなく、新しい試みを追求した芸術作品として、ご覧になってはいかがでしょうか。

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