長く仕事をしていると、戸惑った選曲の発注があったりします。その一部をご紹介。
”ス”を作って
まだ駆け出しの頃、ある仕事で某ディレクターとの打ち合わせで「O事務所のFさんは素晴らしい選曲家だ。彼はべったりと音楽を付けることはしない、ちゃんと”ス”を作る。今回は”ス”を作ってくれ」と依頼を受けました。”ス”とは音楽をつけない部分の事です。確かに音楽べったりだと作品が流れ過ぎて、メリハリが効かなくなる事もあります。なので「わかりました」と受けたのですが・・・
オープニングの曲を付けてすぐ「はい、ここで”ス”を入れよう」と早速指示が来る。10秒くらい間を空けて「ここから音楽ね」との指示。M-2が終わると「はい、ここで”ス”」と、またまた10秒くらい間を空ける。「はい音楽」とM-3を付けると「はい、ここで”ス”」と、またまた10秒くらい間。M-4が終わると私から「ここで”ス”ですね」と言うと「そう、やっぱり”ス”を入れなきゃ」と言う。
結局、1曲ごとに10秒ずつ”ス”を入れるという、なんか不思議な仕上がりに。映像は”ス”なんて意識しないで編集してあるから、なんでここから音楽?という印象になって、正直変なのですがディレクターは「良し、ちゃんと”ス”が入った」とご満悦。
音楽を付けたいのか”ス”を付けたいのかどっちなんでしょう(笑)
ランバダで
ディレクターやプロデューサーの中には”流行り物”を取り入れたいという願望があるようです。1990年あたりに、ランバダという音楽が流行りました。で、ある作品の打ち合わせで「今回はランバダでまとめてくれ」と言われました。私「え??ランバダ?」
ランバダってダンス音楽なのですが、ちょっとエスニックで、マイナー調な曲です。ちなみに作品は就職情報ビデオ。キャスターが出て最新情報を伝えるニュース風なものです。テロップも飛ぶし、ランバダでまとめろって・・・しかも有名なあの曲は知ってるけど、他によく知らないし、だいたい音楽ライブラリーに無い・・・。
凄く悩みましたが、結局リズミックですがニュースよりの音楽でまとめました。で、反応は・・・。
「いいね、やっぱりこっちが合うね」って、めっちゃ苦悩したんですけど(笑)変な思いつきやめて欲しい。
ワンカットごとに曲変えて
深夜の六本木の某スタジオでの作業中、音楽の方向性に答えが出せないディレクターが「わかった!ワンカットごとに曲を変えてくれ」と言い出しました。
私「え?ワンシーンじゃなくワンカットごとですか?」
ディレクター「そう」
ミキサー「いや、絶対おかしいですって」
ディレクター「いや、いけると思う、やってみて」
私「じゃあ、ちょっと時間もらいますが」
ディレクター「いいよ、向こうに居るから」
とスタジオを出ていきました。私とミキサーは2人で作業開始。ワンカットごとですから3秒くらいで音楽が変わるんです。
ワンシーン、何十曲も音楽を使い、全部のカットで音楽を変えました。もちろん時間もかかりましたし、まったく意味不明です。で、ディレクターがやってきて映像を見て・・・
「んー、やっぱり駄目だな、最初に付けた曲で行こう」と・・・
そんなもん、やらなくったって解るわ!とミキサーと目を合わせた事は言うまでもありません。
水曜どうでしょうみたいに
ある作品でプロデューサーに「水曜どうでしょう」みたいな世界観で仕上げたいと言われ、「水曜どうでしょう」のビデオを渡されました。当時私は「水曜どうでしょう」を見たことがなく、まぁ音楽も似たような曲を付ければいいのかなと思い「わかりました」と答えて、帰ってビデオを見てみると・・・
音楽なんて全然付いてないやん!大泉洋と鈴井貴之とディレクターが喋ってるだけで、たまに「どどん!」とテロップに音が入るだけじゃん!と予想外のビデオでした。
ちなみに作品は子供向け教育ビデオ・・・いやいやさっぱり、どうして良いかわかりませんでした。あまりにも内容が違いすぎるのです。「水曜どうでしょう」みたいな世界観って・・・
結局、テロップのSEはそれっぽいものにしましたが、とても「水曜どうでしょう」みたいな世界観にはなりませんでした。スタジオで「無理!」って言いました(笑)。
後日、私は「水曜どうでしょう」にどハマりするのですが(笑)初めて見た「水曜どうでしょう」が仕事の依頼の参考ビデオだったとは、面白いこともあるものです。
と、まぁ今回は以上4エピソードでした。次回・その2でお会いしましょう(いつになるか解りませんが・・・笑)。
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