ヘイトフル・エイト

勝手にレビュー

2015年公開・監督:クエンティン・タランティーノ 主演:サミュエル・L・ジャクソン 音楽:エンニオ・モリコーネ

タランティーノらしい作品

全6章

全6章からなる、吹雪の中の山荘を舞台にした密室劇。普通の監督がやると、いわゆるミステリー物になるんだけど、タランティーノがやるとクレイジーになる(笑)だからR指定を受けてしまう。クセがあるから全員に進められるわけではないけれど(自分が上品と感じている人は見ないほうが良いです)、私にはめっちゃ面白い作品。なんだかんだで5,6回は見てるな。とにかく下品だし暴力的だし汚らしいですね、表現が。とはいえ167分の上映時間が長く感じない、実に密な作品。タランティーノ独特のセリフ回しで引っ張る「パルプ・フィクション」や「イングロリアス・バスターズ」の世界観を西部劇に持ってきた印象ですね。

舞台は2箇所

舞台としては、第1章、第2章の吹雪の山中、それ以降のミニーの紳士服飾店と2箇所しかない。ミニーの紳士服飾店はひたすら心理戦です。最初に書きましたが時代設定こそ西部劇ですがミステリーなんです。「ヘイトフル・エイト」のエイトは8人という意味で、8人による密室劇ですね(一応登場人物はもっと出てきますよ、過去とかもあるし)。ですからこの作品は舞台にしても成り立ちます。そのくらい脚本がしっかりしてて、内容で引き込まれるからです。

オマージュ

タランティーノの映画には、彼が影響を受けてきたオマージュ的な要素がたっぷり入っており、この映画も例外ではありません。わかりやすい例をひとつ上げると、この映画はもうひとつの「遊星からの物体X」です。シチュエーションも出演者も、そして音楽も。

サウンドトラック

エンニオ・モリコーネ

音楽、エンニオ・モリコーネ。この作曲家がいかに素晴らしく凄い人か、知らない人が居たら知ってください。2020年に91歳で亡くなりましたが、彼の作品を正確に把握するのが困難なほど作品数が多い人です。映画音楽界のピカソと言っても過言ではありません。いやいや数が多いだけではありません。その作品も多彩で素晴らしいのです。そのあたりもピカソ的です。彼はこの「ヘイトフル・エイト」でアカデミー作曲賞を受賞しましたが、私的にはもっともっと受賞すべき作品はいっぱいあったと思います。はっきり言います。「ヘイトフル・エイト」の音楽は彼の作品のベスト10には入らない!

タランティーノはモリコーネが好き

エンニオ・モリコーネ論になると、それだけでブログが立つほどになるのでヘイトフル・エイトに絞りますが、もちろん音楽は素晴らしいですよ。個性的でしっかりと「ヘイトフル・エイト」のテーマを奏でています。私はこういった、聞いた瞬間に「あの映画の音楽だ」とわかる音楽が好きです。し、そうあるべきだと思っています。サントラ盤を聞いてもらうとその意味を理解してもらえると思います。たぶんタランティーノも同じ意見じゃないかな。タランティーノも映画音楽が好きで、エンニオ・モリコーネが大好きです。過去の作品でもエンニオ・モリコーネの音楽を選曲しています。

選曲

そう、「選曲」しているんです。タランティーノ作品と言えば選曲です。例えば「イングロリアス・バスターズ」。すべての音楽が、過去の映画音楽から「選曲」されています(エンニオ・モリコーネ以外もあります)。私がお勧めする(笑)映写室で撃ち合うシーンは、映画「非常の標的」の音楽からの選曲です(CDだと6曲目、Un Amico (Titoli) )。いやいや知っている人はあまり居ないと思いますが名曲です。もちろん作曲はエンニオ・モリコーネ。で、面白いのが今回の作品でも彼の過去の曲から選曲しているんです、なんで?。今回の音楽担当はエンニオ・モリコーネじゃん、全部作曲してもらえばいいじゃん(笑)。例えば雪の中を走る馬のシーンの音楽は映画「エクソシスト2」から”リーガンのテーマ”。超名曲!(誰も知りませんよね・・・)しかもオリジナルの映画より聞きやすい。あと選曲されているのが、先程書きました「遊星からの物体X」からの音楽です。なんと驚きなのが、オリジナルである映画「遊星からの物体X」では使用されていない音源なのです。サントラCDには入っているんですよ。つまり「遊星からの物体X」の為にエンニオ・モリコーネが作曲した楽曲が「遊星からの物体X」の映画の中では使われず、「ヘイトフル・エイト」で実に33年ぶりに使われたのです。タランティーノがいかにマニアックな映画音楽オタクかよくわかります。

実は私、タランティーノと同い年なんです(笑)だからかなぁ、音楽の選びかた、使い方が理解できます。国は違えど同じ映画を見てきたら、どこか感性も似てくるんでしょうね。

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