今回はアニメ作品の選曲の巨匠、さとうやすのさんにインタビューしてきました。さとうさんは、主に東映アニメーションの作品の選曲として活躍されていて、キャリアも30年以上、アナログ時代〜デジタル時代と激動の時を歩んで来られました。(以下敬称略で掲載します)
ゆーた:どんな経緯で選曲を始められたんですか?
さとう:音響系の学校を卒業して、ビデオミュージックオフィス(Vimos、のちにビモス・プランニングと名称変更)という音楽制作や選曲をやっている会社に就職しました。当時の上司が宮下滋さん(アニメ、デビルマンやバビル二世の選曲家)で、最初は「Dr.スランプ・アラレちゃん」や「キン肉マン」などの作品の選曲助手をしていたので、そこから選曲の世界に入っていったのです。
ゆーた:そうなんですか、「Dr.スランプ・アラレちゃん」が最初に参加した作品ですか?
さとう:いいえ、最初に携わった作品は、「ベムベムハンターこてんぐテン丸」です。
ゆーた:その作品も宮下滋氏の助手としてですか?
さとう:そうです。
ゆーた:ではご自身のデビュー作は?
さとう:デビュー作は「とんがり帽子のメモル」です。1984年ですね、作曲は青木望さんでした。
ゆーた:どのようにデビューが決まったのですか?
さとう:旗野義文さんというプロデューサーに抜擢していただきました。「ベムベムハンターこてんぐテン丸」での印象が良かったのだと思います。
ゆーた:「ベムベムハンターこてんぐテン丸」が1983年ですから1年も経たずにデビューですね!
さとう:はい、「とんがり帽子のメモル」は1年くらい放送されたのですが、同じ放送枠の次作「はーいステップジュン」も引き続き選曲担当となり、その後ずっと続いていきます。「はーいステップジュン」も作曲は青木望さんでした。
ゆーた:青木望さんは「銀河鉄道999」や「幻魔大戦」の作曲家ですね、楽曲の発注はどのように行なうのですか?
さとう:原作やシナリオを読んで、シリーズ全体を見据えたうえで必要になるであろう楽曲を 監督と相談しながらリストアップしていきます。で、作曲家との打ち合わせのときに、イメージを口頭で伝えます。
ゆーた:何曲くらい発注するんですか?
さとう:ケース・バイ・ケースですが、短いブリッジ音楽なども含めて、昔はだいたい90曲くらいだったのですが、今は40曲から50曲くらいですね、第1回のレコーディングでは。
ゆーた:というと、何度もレコーディングするのですか?
さとう:作品が放送される期間にもよります。例えば1年間放送される作品なら途中で追加のレコーディングが行われます。ですから総楽曲は100曲を超える事もあります。
ゆーた:そんなに音楽が必要なんですか?
さとう:1年もの間、お話が展開していくのに、ずっと同じ曲ばかりじゃ手詰まりになりますし、お話の展開によって、必要な曲も変化してくるので、追加のレコーディングは必要だと考えています。それに最初の発注のときは、まだアニメの全体像が見えていないので、想定したシーンの印象が違ったり、必要な音楽が足りなかったり、逆に使い所が見つからない曲であったりするので、追加レコーディングで、よりイメージに近づけるように修正していくのです。
ゆーた:音楽のレコーディングにも立ち会われるのですか?
さとう:もちろんです。最初の頃は緊張してましたが、今はこのレコーディングが楽しい時間になりました。だって目の前で、自分の相棒になる楽曲が次々と形になっていくんですよ、とってもわくわくします。
ゆーた:レコーディングでダメ出しとかするんですか?
さとう:ダメ出しはしません。重要な曲は事前にデモをいただいて、そこで方向性が違ったら修正してもらいますから。レコーディング中は、後でどんなバリエーションをもらおうかを考えておいて、TD(トラックダウン)の時にお願いして、作ってもらいます。
ゆーた:なるほど。で、楽曲が完成して、ここからが選曲作業ですね。
さとう:そうです。音楽は、昔は6mm(オープンリール)で納品されましたが、今はファイルです。たまにステムデーターで貰ったりします。
ゆーた:ステム?ステムデーターってなんですか?
さとう:おや?ご存じない?ミックス作業後のバラ素材です。既にエフェクターもバランスも処理済みなので、同じレベルで同時に出すと、2ミックス(ステレオの事)になります。だけどバラ素材なので、選曲作業でメロディー抜きとか、ストリングス抜きといったアレンジができるのです。
ゆーた:それは凄い、選曲の幅も、編集の自由度も上がりますね。
さとう:それはそうですが、基本は今でも2ミックスです。だけど昔の6mmでは、編集するとピアノの余韻が切れたり、唐突にブラスが出てきたり、どうしても避けられない不自然さはあったと思いますが、デジタルの時代になってそのあたりも解消されてきました。テープ編集以上に細かい切り貼りができるし、オーバーラップやエフェクトでより自然な仕上がりになります。
ゆーた:なるほど、選曲の表現もデジタルで変わったんですね。
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