選曲で構成する:クラシック編

選曲について

クラシック編

クラシックはそれ以外の音楽にくらべて違いがあります。大部分の音楽はライブにしろカバーにしろ、基本的にオリジナルは完成楽曲であることが大部分です。しかしクラシックは数百年の歴史があり、基本的に楽譜に記された楽曲をどう表現するかで評価が変わる音楽です。楽団の質や指揮者の表現など、同じ曲でも別物となります。

たとえば「2001年宇宙の旅」で有名な「ツァラトゥストラはかく語りき」などは、いろいろな作品でよく選曲されますが、「なんか違うなぁ」とか「もっと格調ある演奏ないかなぁ」とかよく知られている曲だけに評価が変わってきます。また、映像作品に編集段階で仮として曲が付けられていた場合、同じ演奏音源でないと尺(曲の長さ)が違ってきて、映像とシンクロしません。こういった事例はクラシック曲で構成する場合にありがちです。また理想的な演奏の楽曲の権利をクリアしようと思っても、海外の演奏だと原盤権の許諾をとるのに膨大な金額が必要になります。(昔の楽曲ですから、著作権は消滅している場合が多いです)こういった事態を回避するには、前もって使用する楽曲を、使用可能なライブラリーから選曲する必要があります。ディレクターには用意できる楽曲のなかでイメージを固めてもらう事になります。

今回は「ヨーロッパの国や自然、街並みを紹介する20分の映像」をクラシック曲で構成することを想定してみましょう。Rock編では1曲ループでの構成は避けると書きましたが、クラシック編では1曲だけでの構成は有りです(推奨はしません)。クラシックの場合1曲が20分を超える楽曲はありますし、楽曲構成もしっかりしていますし、むしろ細かく音楽を変えていく方が不自然になりがちです。ただ1曲で構成する場合の注意もあります。

注意その1:楽曲の終わり方

音楽の入りはほぼ問題ないのですが、映像の終わりで音楽の新しいフレーズが始まったり、盛り上がりが始まると終わり方に「無理やり」感がでて不自然になります。編集すれば良いと考えるかもしれませんが、視聴者も楽曲をよく知ってるだけに編集がわかってしまいます。「何故ここで編集?」とか「この部分をカットするなんてありえない」とか、クラシック曲の元々からある構成を変えることはリスクを伴います。ですからできるだけ自然な場所でフェードアウトするのが望ましいのです。ではどう回避するのでしょうか。フレーズの良い別の曲を選ぶのが一つの方法です。あとは、不自然な終わり方が数秒で回避できるのなら、音楽のスタートを遅らせたり、お尻に若干の無音部分ができてもフレーズの良い部分でフェードアウトしましょう。クラシック曲は他の楽曲に比べて、音の入り、音の終わりに無音が入っても気になりません。むしろカットと同時にスタートするより余裕がある方が格調が高い気さえします。音楽を中心に考えましょう。

注意その2:地域性

ヨーロッパの紹介なのにクラシックだからといって「ラプソディー・イン・ブルー」や「白鳥の湖」を使うのは駄目です。お解りでしょうが「ラプソディー・イン・ブルー」はアメリカの作曲家ガーシュウィンの作品だし、「白鳥の湖」はロシアの作曲家・チャイコフスキーの作品だからです。クラシック曲には故郷があり、どうしても意味を持ってしまうからです。ちゃんとヨーロッパの作曲家の作品で構成しましょう。

注意その3:映像の構成による

20分の映像のなかで、たとえばイギリス・フランス・ドイツ・・・などと順番に紹介されている場合も1曲での音楽構成は避けたほうが良いです。先程の地域性と同じ、ヨーロッパといえども国によって作曲家が違うからです。またこの映像構成の場合、むしろ音楽を分けることでそれぞれのシーンをはっきり区別することができます。では20分の映像作品の構成が2分ずつ10カ国を紹介していた場合はどうするのでしょうか。2分ずつ、それぞれの国のクラシック曲を使って構成する・・・もちろんベストです。ただこの場合はクラシック曲の頭から使う事へのこだわりは捨てて、その曲の聞き所を中心に使っていきましょう。またよくあることですが、ある国のクラシック曲がどうしても手に入らない時・・・この場合はクラシックにこだわらず、音楽ライブラリーから「クラシック風」の楽曲を使うのが無難です。地域的な矛盾を回避できるからです。

クラシック曲で構成された映画には「アマデウス」や「ファンタジア」などがありますが素晴らしい効果をあげていますよね。特に「アマデウス」は私も大好きな映画で、まるでこの映画のために作曲されているかのようなシンクロ性を感じます。モーツァルトやサリエリといったクラシックの作曲家のお話なので楽曲もクラシックという発想なのでしょうが、劇伴は割り切ってドラマ音楽を作曲したほうが表現は楽だったと思うのに、あえてクラシックで構成するのも結果として成功しました。もともと舞台での作品ですから、その流れもあったのでしょう。この「アマデウス」も「ファンタジア」も先に使う音楽を決めて作品を作っているのですが、ここが重要です。クラシック曲で作品を構成する場合、まず音楽(音源)を決めてから作品を作っていくのがベストです。あとで選んで付けていくとどうしてもクリアできない部分がでてきます。ですからクラシック曲を使うとわかった段階で選曲担当としては「先に音楽を決めましょう」と提案すべきです。

クラシック楽曲で構成する場合は、通常の選曲より細かい配慮が必要です。それは選曲する我々よりクラシック曲に詳しい視聴者が多くいるからです。しかも映像の長さという物理的な制約にも対処しなければいけません。なにかとハードルが上がるのですが、選曲家としては当たり前にこなさないとですね(笑)。

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