映画音楽の話

雑談

好きな映画って誰にでもあるでしょう。感動した映画、笑った映画、ワクワクした映画。そんなとき、こう感じたことはないですか?「この映画、音楽が良い!」とか「戦いのシーンの音楽がカッコ良すぎ!」とか「この映画の音楽聞くと涙が出る」とか・・・。そうすると、その音楽を手に入れたくなりませんか?そして、手に入れて聞いてみたら「なんかイメージと違う」と感じたことはありませんか?

今回はそんな映画音楽の話題です。かなり趣味が入ってますのでご容赦を(笑)

劇伴とサントラ盤

劇伴

劇伴とは劇中の伴奏音楽の事です(略して劇伴ですね)。そもそも歌手の後で演奏しているバックバンドも伴奏ですし、舞台のお芝居の為に、オーケストラピットで演奏するのも伴奏ですが、劇伴というとおもに映画やドラマに付随する音楽を指す場合が多いです。我々も劇伴を選曲しているわけです。

今回は解りやすく映画に絞って書きますが、劇伴は通常M-1、M-2と通しナンバーで表記され、後で追加になったものはM-2Aとか、EXとか表記されたりします。市販されているような楽曲タイトルが付いているわけではありません。

映画音楽大全集

そのような映画のテーマ音楽を集めて発売されるのが、”映画音楽大全集”とか”不滅の映画音楽”とか”映画音楽ベスト”などの、オムニバス盤です。しかしこのオムニバス盤は劇伴とは全く違います。

だいたいの音楽は聞きやすいように、そして演奏する楽団に規模に合わせてアレンジされ、イメージテーマとして、店舗や喫茶店のBGMとして流れたりします。買った人も「この映画の音楽はこれなのか」と感じる人も居ますが、映画とは全くの別物です。

サントラ盤

サントラ盤はその名の通り、オリジナル・サウンドトラック盤のことで、映画で使われている音楽の事です。つまりサントラ盤を聞くことで、その映画の劇伴を聴けるわけです。

と一般的には思われています。

そうなんです。サントラ盤と劇伴は同じとは限らないんです。

劇伴とサントラ盤の違い

70年まで

レコード時代はサントラ盤として、テーマ音楽が入ってるEP盤とBGMも入ってるLP盤が販売されていました。演奏を聞いてみると、映画で聞く音質やアレンジがほぼ同じなので、大部分の人は「映画で使われた音楽」と認識しましたが、実は別演奏であることが多いのです。つまり、まず映画の劇伴として録音して、次に販売用として録音する。同じメンバーや環境で録音するので、劇伴とそっくりなのです。もちろん劇伴をそのまま販売することもありますが、レコード鑑賞に耐える演奏やアレンジを施すことで、価値を上げる意味もあったのかも知れません。

80年代から

レコード盤からCDへ変わりつつある時代、サントラ盤も考え方が変わってきました。映画の劇伴ではなく、挿入歌でアルバムを構成する動きです。「トップガン」「愛と青春の旅だち」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「バットマン」など、そんな歌入ってたっけ?みたいな歌のアルバムをサントラ盤として売り始めました。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の「ヘヴン・イズ・ワン・ステップ・アウェイ 」という曲なんて3秒くらいしか映画で流れないんですよ(計った訳ではないですが・笑)。

2000年代以降

インターネットの情報化社会になり、今まで表に出なかった情報を手に入れたりできるようになってマニアの時代になると、本物の劇伴を求める人の要求に応えるために、数々の映画の音楽を掘り出す動きが出て来ました。サントラ盤ですら違う、本物の劇伴です。本物の劇伴とサントラ盤をカップリングした「聴き比べ」のようなCDも発売されだしました。

違うサントラ盤をピックアップ

例として、有名な映画の、劇伴とサントラ盤が違う作品をピックアップしてみましょう。

スターウォーズ・新たなる希望

「スターウォーズ」シリーズは皆さんご存知ですね?その劇場第1作「スターウォーズ・新たなる希望」の音楽はジョン・ウィリアムズ。演奏はなんとロンドン交響楽団、スタジオ・ミュージシャン寄せ集めではなく、組織化されたオーケストラです。サントラ盤も気合が入っていてLP2枚組で発売されました。この音楽も劇伴とサントラ盤は別演奏です、が、ほとんどわかりません。スコアもちゃんと書かれていたのでしょうが、演奏もさすがロンドン交響楽団、再現性が凄いのです。

ではなぜ、再演奏とわかるのか・・・あの有名なスターウォーズのテーマ、サントラ盤では5分25秒ほどありますが、劇伴は2分14秒です。サントラ盤ではエンドタイトルの後半をくっつけて演奏しているから長いのです。劇伴はチェロとコントラバスのロングトーンで終わります。

ちなみにスターウォーズのテーマ、ロンドン交響楽団はレコーディングでおそらく10数テイク演奏したであろう録音が残っています(take 16とか言ってるし)。主な違いは導入のジャーーーンの部分です。いろいろなジャーーーンを試しています。しかもジャーーーンのあと、フルに演奏しているんです。信じられないですよね、よく演奏家に怒られなかったですよね・・・。あぁ怖い・・・。

エイリアン

「エイリアン」も皆さんご存知だと思いますが、音楽は印象薄いと思います。内容が内容ですし、音楽に耳がいかないですもんね。この第一作目、監督:リドリー・スコット、音楽:ジェリー・ゴールドスミス。

当時から映画音楽ファンの私は「エイリアン」のサントラ盤を映画の前に買い、何度も聞いて覚えてしまいました。そして劇場へ行き映画を見て驚きました。メインタイトル、エイリアンのテーマが流れないのです。なんか訳わからないぐにょ〜とした音のような音楽なのです。映画が終わってエンディング、これはサントラ盤のB面に入っていたのですが、この曲も流れません。なんで?

当時は情報も無くわからなかったのですが、実はサントラ盤に入っているテーマを作ったのですが監督にNGを出され作り直したのです。ですからサントラ盤として、使われなかった音楽がテーマとして販売され、映画本編には作り直した音楽が使われました。エンディングも作曲した音楽は使われず、別の音楽を「選曲」して使用したのです。

今は映画に使われたバージョンも手に入れることができます。ミュージック・コンクレートのような音楽で、一瞬エイリアンのテーマの一部が出てきます。ジェリー・ゴールドスミスも辛かったでしょうね。

ジョーズ

監督:スティーブン・スピルバーグ、音楽:ジョン・ウィリアムズ。超有名なサメの映画ですよね。この音楽、アカデミー作曲賞を受賞しています(書き忘れてましたがスターウォーズも受賞してます)。

あのザ・ザ・ザ・ザ・ザ・という音楽は超有名でテレビでもパロディで使われたりしますが、あの音楽は別演奏です。とゆうか、レコード販売を意識した別アレンジバージョンです。劇伴で使われたメインタイトルはもっと短く、音楽の導入もアレンジが違います。

ジョーズもサントラ盤がアルバムとして出ていますが、劇伴とは演奏が全然違い、かなり商業ベース(言い方悪いかな・・)を意識したサントラ盤になっています。初めて本物を聞いたときには違いに唖然としました。

なぜ劇伴とサントラ盤はちがうのか

使用環境の違い

昔の映画はモノラルでした。つまり音声トラックは一つですね。ですがご家庭のオーディオ環境は映画より早くステレオになりました。レコードとして販売するにはステレオでなければなりませんが、映画の現場ではモノラルでの作業なのです。ステレオ素材でモノラル作業を行なうのは、様々なトラブルの元なので、劇伴は基本モノラルで録音します。そしてレコード用にはステレオで録音するので2テイク必要だった・・・のが始まりだったのではと推測します。

商品価値

映画のサウンドがステレオになった後でも、劇伴は映画に合わせて演奏されますから、特殊な録音と言えます。それに対しレコードは映像を無視して演奏できますから、聞かせるための演奏に集中できますし、聞かせるためのアレンジに変更できます。商品価値を考えても2種類の録音を選んだのでしょう。

映画に使われた、本物の劇伴を聞きたいと思う人は、私のような一部のマニアだけだとは思いますが、本物には再演奏にはない臨場感があります。クラシックの演奏解釈の違いにも似ているかも・・。実は最近「宇宙空母ギャラクティカ」という1978年作品の本物劇伴をポチッとしました。限定3000枚というマニアックなCDです。多分まわりはドン引きです(笑)、が、これも勉強!・・・と言い訳させてください。

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