日本製の音楽ライブラリーの歴史

選曲について

アニメやドラマなどの作曲者が参加する作品の選曲ではない場合、市販の楽曲を使うこともありますが、権利関係が絡むので、予算や交渉時間を考慮して音楽ライブラリーを使うことは非常に多いです。

音楽ライブラリーには外国製のもの、日本製のものがありますが、今回は日本製ライブラリーについて書いていきます。

歴史

70年代以前

残念ながら業務的に閉鎖環境なので、そこまで詳しくはわかりませんが、組織的に作られていた音楽ライブラリーはあまり無かったと認識しています。グループ的に身近な集まりでの音楽ライブラリー制作はあったようですが、商業的に難しかったのではないかと思います。

このあたりの歴史的な背景や状況は、近いうちに調査します。

80年代

ひょっとしたら70年代後半かもしれませんが、商業ベースの日本製業務用音楽ライブラリーが登場しています。私の勤めていた事務所にもありました。どこの会社かは書きませんが、まだコンピューターの打ち込み制作が一般になる前で、すべて生演奏です。今から考えても制作費はかなりかかってたのではないかと思います。

初期はレコード1枚10万円くらいの価格だったと思います。(著作権料金のかからない使用料のような記述がありました)市販の楽曲にくらべてめっちゃ高いですが、マーケットの狭さを考えると当然の価格でしょう。

海外製音楽ライブラリー全盛の時代に、意欲的な試みですが、残念ながら楽曲の質は見劣りしました。でもこれはしょうがないのです。海外製音楽ライブラリーは全世界マーケットですから制作規模が大きいし、予算もかけられるし、定期的に作る体制もしっかりしているのです。

また海外製音楽ライブラリーは、レコード1枚も数千円でした。私もよく試聴に行き、どのレコードを買うかを選んでいたので、質の高さにはいつも感心してましたが、海外製音楽ライブラリーの最大の弱点は著作権料がかかるということです。

ではなぜ著作権料を払ってまで海外製音楽ライブラリーを使うかというと、著作権料はかかっても著作隣接権料がかからなかったからです。JASRACに著作権料さえ払えば他に料金がかからないので、手続きが楽だったのです。

とはいえ著作権料は、CMの場合だと、オンエアー1回数千円もかかります。100回オンエアすると数十万円かかります。なのでCMには使いにくいし、販売物の場合は正確な出荷本数の把握、JASRACマークの貼り付けなどお金も手間もかかります。

なので著作権料のかからない日本製音楽ライブラリーの登場は、ある意味画期的だし、必要でした。1枚10万円?安いじゃないですか(笑)。

日本製ライブラリーの台頭

話が脱線しますが、シンセサイザーの初期はモジュールで、基本モノフォニックなので、シンセサイザーで音楽を作るのは大変でした。が、ポリフォニックのシンセサイザーが登場し楽器として使いやすくなり、YAMAHAのDX7というデジタルシンセサイザーが登場すると、自動演奏もデジタル制御になり、誰もが音楽を作りやすい環境になりました。

演奏を録音するのが大変なドラムスも、LINN・DRUMの登場で宅録が可能になり、YAMAHAのRX7が価格を下げて、音楽制作のハードルがぐっと下がりました。

そんな頃、別の会社から6mmオープンテープで日本製の音楽ライブラリーが登場しました。ドラムこそデジタルドラムでしたが、生のストリングスも入った、実に使いやすいライブラリーでした。楽曲を幅広く網羅するのではなく、POPSやFUSIONを中心に、よく使うであろう楽曲に絞ったのも正解でした。もちろん著作権フリー。このライブラリーは使いまくりましたね。

そしてCDの登場とともにまたまた別の会社から音楽ライブラリーが登場しました。このライブラリーは外国の楽曲も使っていましたが、すべて著作権フリー。CDの利便性もあり、急速に普及していきました。

販売したのが音楽雑誌を販売する出版社だったので、自社制作の楽曲にはいろんな作曲家・演奏家が参加し、基本的に打ち込み中心の楽曲でしたが、使用できる楽曲が増えたのは、選曲側にとって嬉しい事でした。

余談ですが、このライブラリーには6mmオープンテープで販売されたのと同じ楽曲が、打ち込みでアレンジされて収録されていましたが、同じ作曲家が参加したんですね・・・最初聞いたときは「これ良いの?大丈夫?」と思いましたが・・・。

海外製音楽ライブラリーの逆襲

日本製音楽ライブラリーは著作権フリー。この強みを打破するために、海外のライブラリーを日本国内使用に限り、著作権フリーという海外製音楽ライブラリーが登場しました。これは強烈でした。日本製がまだ模索状態の、生演奏・生楽器・オーケストラのクオリティーが著作権フリーで使えるのですから、最初はちょっと信じられなかったです。この流れが現在も続いているのですから、実にブレイクスルーだった訳です。

日本製ライブラリーの乱立

バブルの時代だったこともあり、映像作品は大量に作られました。楽曲は湯水のように消費されていくので、選曲家は新しい楽曲に飢えていました。そのせいもあり、日本製音楽ライブラリーは東京、大阪、北海道など、いろいろな場所から登場しました。CD1枚数万円が飛ぶように売れていったのだと思います。

ただ残念なことに、ジャンルは狭く、打ち込みをベースに、せいぜい生楽器1つか2つ、ロック、フュージョン、ポップス、僅かなバラードで、オーケストラが絡む楽曲はほぼありません。理由は単純にお金と手間がかかるからです。譜面を書いて演奏家をスタジオ(もしくはホール)に呼んで収録は、日本製ライブラリーにはハードルが高かったのです。

90年代

生楽器を中心に考えると、海外製音楽ライブラリーに頼るしかありません。そのあたりを代理店も見逃さず、新たな海外製音楽ライブラリーも登場してきます。もちろん日本国内著作権フリーです(この日本国内著作権フリーは、かなり微妙ですが)。

しかも世界マーケットの音楽ライブラリーです。一気に数十枚のライブラリーが手に入ります。日本製のライブラリーのリリースは一度に2〜5枚程度、数ヶ月に1度です。残念ながらクオリティーもまだ外国製ライブラリーの方が上でした。

バブルも弾け、需要が停滞すると、日本国内マーケットだけで勝負していた日本製音楽ライブラリーから撤退する会社も増えてきました。小さな会社ではライブラリーを定期的に提供し続けるのは困難だったのです。

2000年代

デフレ時代に、音楽を制作してCDプレスして提供するのは、かなりのリスクです。結果的には老舗・大手の日本製ライブラリーが生き残り、小さな会社はたまーに発売する程度で継続的な運営は困難でした。CDプレスでは経費がかさむため、ライトワンスCDで提供する音楽ライブラリー会社もありました。

2010年以降

まだまだデフレの日本ですが、デジタルの進化が新しい展開を見せ初めます。

まずは楽曲の質。昔は正直「打ち込みじゃなぁ」などと馬鹿にされていた打ち込みも、今は生演奏との差を聞き分けが難しい楽曲もあるほどに進化し、打ち込みでオーケストラ楽曲を制作することに抵抗がなくなってきました。そもそも海外製音楽ライブラリーでさえ打ち込みオーケストラ楽曲が増えてきました。そうなるとセンスの勝負です。むしろ日本で使用される音楽を熟知している日本製ライブラリーのオーケストラの方が使いやすいのです。また、海外製音楽ライブラリーは楽曲が多く、多様化しすぎて、選曲しづらいとさえ言えるようになってきました。

今、日本製音楽ライブラリーと、海外製音楽ライブラリーの差は、かなり縮まってきたと言えます。

配信

今、音楽ライブラリーの提供は配信が主流です。提供メディアにお金をかける必要がなくなってきています。このことは、世界どこからでも楽曲を提供でき、どこでも購入できることを意味します。すでに音楽ライブラリーを配信するサイトは日本・海外を問わず大小無数にあります。それにより一般の人も、自ら音楽制作を行ったり、著作権フリー楽曲を手にすることができる、まったく新しい世界になりました。

テレビ局も、コンテンツを販売・配信する方向で制作していますから、著作権の包括契約では対応できなくなってきており、各局自社の音楽ライブラリーを制作したり、契約したりしています。

音楽ライブラリーって、消耗品なんです。常に新しく作らないと古くなります。今後も音楽ライブラリーは増えていきますが、日本製音楽ライブラリーが日本の枠を超える日が来てほしいと思っています。

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