選曲作業に「尺合わせ」はかかせません。「尺合わせ」とは何か・・・音楽の長さを 音楽が必要なシーンの長さに合わせることです。リバーブ飛ばしが選曲技なら、尺合わせは選曲の基本の型でしょう。
音楽には様々な終わらせ方があります。一番多いのが「フェードアウト」です。音楽の音量をだんだん小さくしていく終わらせ方ですね。あとは「カットアウト」、音楽の途中で急に止めてしまう終わらせ方。リバーブ飛ばしも一種のカットアウトです。この2つの終わらせ方はどちらも音楽の途中で終わってしまいます。では音楽の最後のフレーズをちゃんと聞かせる終わらせ方とは・・・。それは「尻合わせ」と「尺合わせ」です。「尻合わせ」(優しく「お尻合わせ」とか、下品ですが「ケツ合わせ」とも言います)は「フェードアウト」の逆で、音楽の冒頭をフェードインさせて、音楽の最後の部分(音楽のお尻ですね)をしっかり聞かせてシーンを締めます。
「尺合わせ」は楽曲の始まり、楽曲の終わり、両方を聞かせる場合に使います。例えばあるドラマで2分間の音楽が必要なシーンがあるとします。シーン頭で音楽がスタートし、2分後のシーン終わりで音楽の演奏がちゃんと終わるようにするわけです。そのシーンに使用する音楽がたまたま2分の曲なら何もせず、その音楽を乗せれば良いのですが、そんな事はまずありません。3分の曲なら1分、4分35秒の曲なら2分35秒、音楽編集でカットして2分の曲にします。逆に1分30秒しかない曲の場合は30秒足して2分にします。
この「尺合わせ」は選曲作業の基本です。作業する作品に10曲の音楽を使う場合、その10曲は基本的に「尺合わせ」します。なぜなら音楽の頭とお尻を聞かせることで、使用したシーンを完結させて、意味を持たせることができるからです。その上でほかの終わり方を検討します。例えば、シーン3の音楽終わりは衝撃的にしたいから「尺合わせ」じゃなく「カットアウト」でいこうとか、シーン7の音楽は雑踏の効果音の中に「フェードアウト」していこうとかです。
ところが、この基本である「尺合わせ」が不可能な場合があります。
不可能その1:もともとの音楽がフェードアウトしている。これはもうしょうがないです。もともと音楽のお尻を演奏してないからです。こういう場合はできるだけフェードアウトしても気にならないフレーズでシーンを締めます。アニメやドラマの劇伴の作曲を依頼する場合、フェードアウトは絶対しないでくれと頼みます。てか頼まなくても完奏させるのがプロの作曲家です(笑)。
不可能その2:楽曲終わりが転調している。これは使用するシーンの長さにもよりますが、使用するシーンが短いほど、音楽編集での「尺合わせ」が不可能になります。例えば、もとの音楽が自然にC調からEb調に展開してても、音楽をカットしてC調に突然Eb調の和音で締めたら、不自然で楽曲として成立しないからです。もちろんチャレンジしますが無理なものは無理(笑)諦めてフェードアウトかリバーブ飛ばしです。劇伴の作曲を依頼する場合は、転調しないでと頼みます。
不可能その3:音楽が展開し過ぎている。例えば最初は静かにピアノ・ソロで始まって、展開して展開して最後はフルオーケストラで終わっている曲。感覚的にわかると思いますが、頭とお尻は別の曲みたいなものです。どうくっつけても不自然です。諦めてフェードアウトです。劇伴の作曲を依頼する場合は・・・とくに何も言いません。こういう曲は必要だからです。
実はデジタル時代になって、この3つの不可能のうち1つは可能になったのです!さて、どの不可能が可能になったのでしょう・・・・・・・・・
答えは不可能その2:楽曲終わりが転調している、です。編集ソフトウェアやプラグインによって、楽曲の調を変えることが可能になりました。これはちょっと嬉しい。まぁ楽曲の転調後の楽器構成で不自然さがぬぐえない場合もありますが、可能性はぐんと広がりました。というか、そもそも「尺合わせ」は、かなりデジタルの恩恵を受けています。編集点のクロスや細かい切り刻みも可能で、格段に音楽編集しやすくなりました。良い環境になったものです。
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