フィルムと選曲

選曲について

今フィルム作品は、減少傾向にあります。フィルム作品と言えば映画ですが、今はハリウッドでもフィルムを使わない映画が多くなってきています。しかし昔は映画はもちろん、アニメやテレビドラマの一部などもフィルムで撮影していました。一般的にフィルムで撮影した作品はフィルムで編集し、音響効果もフィルムで作業します。では、具体的に、どのように作業していたのでしょうか。

ビデオ作品の音響・ミックス作業を「MA作業」と言い、MAルームというスタジオで行いますが、フィルム作品の場合「ダビング作業(略してダビング)」と言い、ダビングルームで行います。これは明確にわかれているものではなく、フィルム作品をMAルームで行うこともあるし、「MA」と「ダビング」の使い分けの確固たる理由は知りません(業界生活30年以上なのに・・・)、宿題とさせてください。とにかくビデオ作品もフィルム作品も、映像の編集後に音響制作に入り、セリフやナレーションを収録し、音楽・効果音を付けてミックス作業をすることに変わりありませんが、その手段は随分違います。

フィルムの場合、編集後の完成映像を見れるチャンスは、基本的に打ち合わせのときだけです。なぜなら映写機とスクリーンが無いと見られないし、そもそも作業用に1本しか現像しません。なのでその1本のフィルムを作業に必要なときにだけ借りるので(あとで出てきますがパンチを打つ時など)、フィルムを見ながら選曲作業するなんていう贅沢な(笑)環境にないからです。ではどうやって選曲するのか・・・それは打ち合わせの時にもらう台本と、編集の流れがわかるカット表、あとは頭の中に記憶した映像をもとに選曲します。台本で内容を把握し、カット表で音楽が必要なシーンの長さを計算し、頭の中の映像記憶を再生しながら作業を進めていくわけです。選曲作業が終わると音楽をテープに録音していきますが、このとき2本の6mmテープ(オープンリール)に順番に録音していきます。1曲めはAロール、2曲めはBロール、3曲めはAロールと、順番に録音していきます。つまりAロールには、M1、M3、M5・・・・Bロールには、M2、M4、M6・・・という具合にです。そしてカット表で割り出した音楽シーンの長さにあわせて、音楽を編集していきます。それぞれの音楽頭には、わかりやすいように白いデルマで線を引いて、わかりやくいように「M1」「M2」などと書き込んでおきます。このテープに線を引く作業は必須です。ダビングルームはスクリーンに映写して作業するので非常に暗い環境です。ですから薄明かりの中で音楽頭を この白い線を目印に探します。

事前作業としてフィルムにパンチ穴を空けます。フィルムの、音楽スタートとなる映像のカットに穴を空け、その1秒前のカットにも穴を空けます。さらにその1秒前のカットにも穴を空けます。さらにさらにその1秒前のカットから数秒まえまでデルマで線をひきます。この状態で映写すると、スクリーンに縦に線が現れ、線が消えて1秒後に白い丸が、さらに1秒後に白い丸が、さらにさらに1秒後に白い丸が見えます。この最後の白い丸から音楽がながれるというわけです。今の例は「1秒2パンチ」と言います。それぞれの間が1秒で、2パンチ目で叩く(再生ボタンを押す)からです。3パンチ目から音楽が流れます。他にも「1秒3パンチ」や「20コマ2パンチ」など、スタジオによって方法はまちまちでした。また実際にフィルムにパンチ穴を空けるのではなく、デルマでバツ印を書く方式もありました。この事前作業も選曲家自身がやる場合とスタジオの助手がやってくてる場合がありました。

効果音は映像とのシンクロが必要な音(足音や殴る蹴るなどの音)はシネテープ(フィルムのようにパーフォレーションが入った、音専用フィルム)に録音して「ツリ」ますが、それ以外は音楽同様、パンチを見て叩く効果音もあります。

さて、いよいよスタジオでダビング作業開始。部屋が暗くなり、フィルムがまわります。映写されるフィルムには様々な印が現れます。ナレーションのタイミングを知らせるデルマ線や、効果音用のパンチなどです。ちゃんと音楽パンチを見極めなければなりません。音楽パンチが来たら、M1をスタート、次のパンチでM2、M2が流れている間にM3をセットします。なので録音テープはA、B、2つのロールが必要なのです。全ての音をリアルタイムでミックスしていきます。ですから間違えたら最初からやり直し。テレビアニメの場合、1ロール13分程ですから、最後で間違えると13分やり直しです。私も若い頃、最後の最後で曲を間違えて平謝りしたことがあります・・・。

今はフィルムを使ったダビング作業でも、デジタル環境なので、ミックスの時にリアルタイムで音楽を叩き出す事はありません。ダーーっとProtoolsに素材を入れたら、後はミックス作業。見てチェックしてれば良いので、緊張感は無いですね(笑)以上、フィルム作品における(過去の)選曲作業についてでした。

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