ナレーション

選曲について

ポストプロダクションにおける音の3大要素は、音楽、効果音、そしてナレーションです。そのナレーションは殆どの場合、映像作品の音の主役です。アニメやドラマはセリフが大部分ですが、ナレーションでの語りもよく入ります。バラエティーも煽るようなナレーションが入ります。もちろんテレビCMも。

アニメやドラマの場合、物語があるのでセリフを中心に展開していくのですが、どうしてもナレーションでフォローしなければ伝わらない部分があります。よくあるのが、これまでの”あらすじ”。今までの映像をダイジェストで見せながら、ナレーションで語りますよね。この部分は理解しやすいので、選曲としても困る事はまずありません。作品の途中で入るナレーションも、物語の展開に沿うものなので選曲には困りません。

バラエティー作品の場合、音楽は場面を煽るために使われるので、ナレーションはむしろ音楽に合わせるように煽ります。選曲としてはナレーションよりも映像の展開やテロップを意識します。

テレビCMなどは、かなり狙った効果を作り込むので、音楽はナレーションを意識するというより、独立しているという立場です。もちろんケース・バイ・ケースなのですが、そもそも作品が短いのでいろいろ試せるのです。音楽やナレーションに対するジャッジも感覚を優先する傾向にあります。

ではナレーションが最も主役となる作品、それはドキュメンタリーです。そしておそらくは選曲家にとって最も悩ましい分野です。

事前に打ち合わせがあり、どのシーンにどんな音楽でいくかを詰めるのは他の作品と同じです。で、持ち帰って映像と台本を照らし合わせ、選曲していきます。作業中の頭の中のナレーターは自分です。ところがナレーションを誰がやるかは、かなり重要な要素なのです。例えば、よく一緒に仕事をするナレーターの方だと、その声も語りの間も大体わかります。ですから仕込み作業中も頭の中でイメージしやすく、選曲作業もわりとスムーズに進みます。が、全くイメージできないナレーションはかなり厄介なのです。打ち合わせ段階で「今回のナレーションは〇〇さんです」と事前に伝えてもらうのですが、その〇〇さんは役者さんだったり、芸人だったり、極稀に素人だったりします。とにかく”クセが強い”人が選ばれたりします(ドキュメンタリー作品が多いディレクター、プロデューサーは、その傾向が強いです)。どんなふうに語るのかはスタジオのナレーションブースでの第一声までわかりません。実はディレクターやプロデューサーもわかってない場合が多い。選曲としては、仕込んできた音楽とどう絡むか不安でしかないのです。

意外に合うね・・・となればラッキー。う〜〜〜んってなると最悪です。仕込んできた曲の半分(以上の場合もある)は差し替えたり、入りどころを変えたり、音楽無しにしたり、とにかくスタジオで時間をかけて作業します。選曲の作業待ちの間は「ちゃんと仕込んでこいよ」的な空気になり焦ります(笑)。というか、”クセが強い”ナレーションは良くも悪くも存在感が強く、音楽がのりにくい場合が多いのです。私は「音楽要らないんじゃないですか?」と言ったりしますが、本当にそう感じている場合が多いです。しかしディレクターの中には音楽が無いのを不安がる人も居て、音楽を要求してきます。選ぶから一旦持ち帰って考えさせてくれ!と言いたいところです。

ではそんな時どう対処するか。私の場合は、まずピアノ・ソロを試します。できるだけ空間的な曲です。ピアノ・ソロは不思議なもので、どんなに”クセが強い”ナレーションも客観的に優しく包んでしまう、お母さん的存在なのです。クセが強ければ強いほど、場面が激しけれな激しいほど、ピアノ・ソロは存在価値を発揮します。もちろん全てに通用するわけではないけれど、「クセの強いナレーションに出会ったら、まずピアノ・ソロから始めよ」という選曲格言を私は作りたいと思います。是非試してみてください。

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