アーティスト

勝手にレビュー

2012年公開・監督:ミシェル・アザナヴィシウス 主演:ジャン・デュジャルダン ベレニス・ベジョ 音楽:ルドヴィック・ブールス

サイレント映画

2012年度アカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞、作曲書、衣装デザイン賞と、主要な部門を独占した映画ですが、なんと白黒映画でサイレント風映画です。

これって勇気がいる映画です。一つ間違えたら、奇をてらった、なんちゃって映画になりそうですが、実によくできてました。

最初からモノクロサイレント映画なので、音楽こそ流れますがセリフはありません。チャップリン映画のような字幕だけです。しかも冒頭はモノクロ映画を上映している映画館を舞台にしているので、はぁ??っとなります。ちょっとややこしいんですね。

とは言え順調に映画は進み、白黒映画と音楽のみで、正直20分くらいでちょっと飽きます。これこのまま1時間40分見るのか?と思った頃・・・音が入ります。音です。

そこからは、同じモノクロサイレント映画なのに、ドラマの中に入っていけるんですよ。最後までしっかり見れました。というか面白かった。なんだろう、心理学的なもの?モノクロサイレント映画に気持ちを掴まれました。これは監督もそうとう研究したようだけど、素晴らしいですよね。1時間40分の長尺をモノクロサイレントで作品賞を取る映画に仕上げてしまった・・・。監督賞にふさわしい技術だと思います。

話は一種の恋愛ものですが、昔スタイルなのでコメディーに見えてしまいます。でも実際は深い話です。古いもの、新しいもの、取り残されるもの、切り開くもの・・・誰もが感じる人生の節目を見せられて、胸が締め付けられます。

良い映画ですが、私は不満があります。賞を取るべき優秀な演者が賞をとっていないから・・・。誰が見てもそう思うはずです。最も素晴らしい演者は・・・犬です。なんて素晴らしいのでしょう、感動して涙が出ます。

このサイレント映画で最も良かったのは、どんなに犬が吠えても声が聞こえないので、犬の一生懸命さだけを引き立たたせて、観客を感動させたことです。犬に拍手!

サウンドトラック

音楽:ルドヴィック・ブールス

すでに書きましたが、2012年度アカデミー作曲賞を受賞しています。とにかくサイレント映画です。セリフも効果音もありません。音楽が音声の主役です。

ただ本来のモノクロ・サイレントに合わせるなら音楽もモノラルじゃなきゃおかしいのですが、この映画の音楽はステレオでめっちゃいい音です(笑)。

前半、あの”音”が入るまでは、良きアメリカな雰囲気の、ルロイ・アンダーソンのような音楽です。モノクロにはピッタリ合ってますね。ただシーンにバチバチ合わせるスタイルではなく(そもそも当時のサイレント映画はそんなにシンクロできない)全体的なBGMスタイルです。私はルロイ・アンダーソンが大好きなので、この手の音楽はすっと入ってくるのですが、それでもちょっと飽きてきました。

ところが、あの”音”とのシーンで音楽は無くなり、再び音楽が流れますが、どちらかと言うとクラシックの印象派の音楽になり、ややドラマに沿った劇伴になります。映像は相変わらずモノクロ・字幕ですが、音楽の印象で少しシリアスになり、映像に引き込んでいきます。

とはいえ、暗い音楽は登場しません。多少衝撃的な演奏はありますが、あくまでサイレント映画の劇伴に徹しているからです。基本的に全編音楽なので、作曲家もよく頑張ったと思います。メリハリを付けにくいんですよね、全編音楽は。

そして、最後の2人のシーン・・・なんと無音です。これが一番衝撃。ここを無音にするために全編音楽ひいてきたのか?と思ったほどです。

タップダンスのシーンはスイングのビッグバンドジャズ。そして・・・ネタバレになるから書きませんが、面白いのはエンディング。撮影が取り直しでテイク2となるのですが、よーい、スタート!でエンドテロップ。そこでさっきまでかかってたスイングジャズをまるまる、もう一度流すんです。そりゃそうですよね、取り直しのテイク2なんだから。でも映像はエンドテロップ。粋ですね!

総括

導入、映画館で上映されるフィルムに合わせて、オーケストラピットで演奏しているシーンがありますが、実際こんな上演は余程の大作で、都会の大きな劇場じゃないと無理でしょう。

日本では「ナポレオン」という1927年の映画をフランシス・コッポラが、父親のカーマイン・コッポラに作曲を依頼し、オーケストラで演奏して上映しましたが(私は残念ながら行けなかった)、普通の映画以上に贅沢ですね。

映像と音楽は映画にとって必要不可欠(ま、たまに音楽の無い映画もありますが)ですが、この映画を見るとその重要性がよくわかります。

「アーティスト」はどちらかと言えば実験的要素の強い映画ですが、たとえば、舞台でのお芝居、歌舞伎、能、人形劇まで物語を語る方法はいくつもあります。最新の映画表現だけが正しい表現ではありません。モノクロサイレント・スタイルでもちゃんと物語は伝わり、心を動かせる事を証明した映画でした。


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